新物質主義(New Materialism)とは?理解するための3つのエッセンスを海外大院生がわかりやすく解説

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人文社会学における最も新しい思想潮流のひとつ新物質主義(New Materialsim)。現代を生きる私たちみんなにとってより生きやすく、より豊かに生きるための重要な気づきを多くもたらしてくれる思想ですが、日本にはまだまだ浸透していません。この記事では定義から新物質主義を理解するための3つのエッセンスまでわかりやすく解説します。

目次

新物質主義の定義とは?

新物質主義とは、私たちが長い間信じてきた人間と非人間の物質世界に関する人間中心主義(anthropocentric)の考えに挑戦しようとする学問分野を跨いだ取り組みです。もっと具体的にいうと、新物質論者は、世界を人間とそれ以外(非人間)・文化と自然というように2つにわけ前者がより理性的で高尚なもののように捉えたり、前者の利益のために後者を犠牲にしたり、「人間がなんでもコントロールできるんだ」というような近代的な思考の慣習を疑います。いまだ一つの定義には落ち着いていないのが現状ですが、新物質主義思想に共通するのは「モノ」の力そのものに注目するという点。

この背景には、ヨーロッパ・西洋の伝統の中で、物質が本質的に意味を持たない受動的な物質として軽視され、矮小化されていると認識されはじめたことがあります。そこで新物質論者が注目するのは、非人間(non-human)の物質がいかに私たち人間と形態は違えど同等に「生き生きとして」「主体的で」「影響力を持つ」ものであるか、つまり受動的で人間の従属物のように扱ってきたモノたちがいかに生成的であるか。どんな現象にもひとつだけの原因を見出すことはできず、人間だけでなく、非人間・あらゆるすべての物質が相互に絡み合い影響しあって一緒に生成していることを理解し直そうとするのが新物質主義的な考え方の軸になることです。

新物質主義を理解するための3つのエッセンス

1. モノの力(Agency)の再評価

新物質主義の中心にあるのは、「モノそのものが主体的に力を持っている」という考え方です。従来の人間中心的な視点では、物質はただの受動的な存在として扱われてきました。しかし、新物質主義は、私たちが何気なく使っている物質や自然の要素が、実際にはそれ自体の動きや影響力を持っており、私たちの行動や世界の変化に大きな影響を与えていると考えます。例えば、気候変動を引き起こすガスのように、非人間の物質が私たち人間社会に影響を与え、その結果私たちがどう対応するかが未来を形作っているのです。

2. 人間と非人間の相互作用

新物質主義を理解するために重要な2つ目のポイントは、「人間と非人間の相互作用」 です。人間だけが主体的であり、自然や物質はただの背景や道具であるという考え方は、新物質主義では否定されます。代わりに、人間と物質、そして自然は互いに影響を及ぼし合い、常に生成と変化を繰り返しています。例えば、都市環境において、建物や道路といった物質的な構造が人々の移動や生活様式を大きく制約するのと同時に、私たちの行動もまたその都市環境を形作っていく、という関係性です。

3. 物質と倫理の再構築

新物質主義がもたらす最大の革新は、「倫理の再構築」 にあります。私たちは人間を中心にして、自然や物質をコントロールする権利があるという考え方に基づいて倫理を構築してきました。しかし、新物質主義では、人間だけでなく非人間的な物質も同じく倫理的に配慮されるべきだという主張が行われています。例えば、環境保護の観点から考えると、ただ人間の利益のために自然を守るのではなく、自然そのものが持つ「主体性」に対する敬意や責任が問われてくるのです。

どうして新物質主義が重要なの?

新物質主義は、これまでの考え方とは異なる、新しい視点を私たちにもたらします。それは、物質や自然が私たちの生活にどのような影響を与えているのかを再認識し、日常の捉え方を変えるものです。では、なぜ今、この考え方が重要なのか?その理由を、わかりやすく説明していきます。

1. 人間だけが世界を動かしているわけではない

これまでの考え方では、私たち人間が物事をコントロールし、自然や物質は私たちが使う「道具」として扱われてきました。しかし、新物質主義は、「物質にも力があり、私たちと同じように世界に影響を与えている」と教えてくれます。例えば、気候変動や環境問題は、私たちがコントロールできない自然の力がどれだけ大きな影響を与えるかを示しています。この視点に立つことで、私たちが自然とどう付き合うべきか、より深く考えるきっかけになります。

2. すべてのものがつながっている

従来は、人間の世界と自然の世界を分けて考えることが一般的でした。しかし、実は文化も自然も切り離せないほど深く結びついているのです。例えば、私たちが使うスマートフォンや車は、自然資源から作られていて、私たちの生活に不可欠な一部となっています。このように、新物質主義は「私たちが生きる世界は、人間と自然が一緒になって成り立っている」と教えてくれます。この理解が広まることで、環境との新しい関わり方を模索する動きが生まれています。

3. モノの力を理解する

私たちは普段、身の回りの物にあまり意識を向けていません。しかし、新物質主義は、物質そのものにも「力」があることを強調します。たとえば、身の回りの家具や日用品、自然の景色でさえ、私たちに影響を与えています。快適な部屋の配置や自然の中でのリフレッシュは、モノや自然が私たちにポジティブなエネルギーを与えている例です。これに気づくことで、物質や環境との付き合い方を見直し、生活をより豊かにするヒントが得られます。

新物質主義の代表的な思想家は誰?ーもっと知りたいあなたへの読書案内

Gilles Deleuze and Félix Guattari (ドゥルーズ=ガタリ)

Desiring-Production' , Gilles Deleuze and Felix Guattari - OnScenes

フランスの哲学者Gilles Deleuze(ジル・ドゥルーズ)と精神分析家Félix Guattari(フェリックス・ガタリ)は、複雑な社会や自然現象を「生成(becoming)」と呼ばれる絶え間ない変化のプロセスとして捉えます。彼らは、世界が固定された構造ではなく、流動的で多様な要素が絡み合って新しい現実を生み出していると主張しました。特に、彼らの「アセンブリッジ(assemblage)」という概念は、人間と非人間、物質と社会がどのように相互作用しているかを理解する鍵となります。

おすすめの本:『千のプラトー』(A Thousand Plateaus) – 彼らの主要な著作であり、複雑な理論を展開しています。特に「リゾーム」や「アセンブリッジ」の概念は新物質主義に大きな影響を与えています。

Jane Bennett (ジェーン・ベネット)

Jane Bennettは「生き生きとした物質(vibrant matter)」の概念で知られ、私たちが普段見過ごしている物質が実は人間と同等に生成的な力を持っていることを主張します。彼女は、物質が単なる背景や道具ではなく、それ自体が主体的に行動し、私たちの世界に影響を与える存在であることを強調しています。これにより、環境問題や政治、倫理に対する新しい視点を提供しています。

おすすめの本:『Vibrant Matter』– 物質のエージェンシー(力)を詳細に解説しており、私たちが物質との関わり方を再考するきっかけになる一冊です。

Bruno Latour (ブリュノ・ラトゥール)

Bruno Latour ist tot - DER SPIEGEL

Bruno Latourは、科学技術と社会の相互作用を研究し、物質と人間が互いに影響を及ぼし合う「アクターネットワーク理論(ANT)」を提唱しました。彼は、科学的な事実や技術的な発明がどのようにして社会や文化を形成しているかを探求し、自然と文化の境界線を曖昧にしました。彼の考え方は、新物質主義における「物質と人間のつながり」を理解する上で重要です。

おすすめの本:『We Have Never Been Modern』– 自然と文化の二元論を批判し、世界がどのようにして技術や物質によって形成されているのかを解き明かします。

Karen Barad (カレン・バラッド)

Karen Barad

Karen Baradは、量子物理学とフェミニズムの視点を融合させ、「エージェンシーと物質の絡み合い(entanglement)」という独自の概念を提唱しています。彼女の考えでは、物質や人間は常に相互に影響を与えあい、独立した存在ではなく、すべてが繋がっているとされます。この視点は、私たちが物質をどのように認識し、倫理的に向き合うべきかを根本的に見直すものです。

おすすめの本:『Meeting the Universe Halfway』– 物質と倫理の関係について深く掘り下げ、科学、哲学、社会理論の交差点で新しい理解を提供しています。

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